FAQ(よくある質問)
FAQ(よくある質問)
Q.債権額に変更があった場合の配当は?
破産手続で、債権額に変更があった場合に、いくらの配当を受けられるのかという問題があります。
破産の配当に関する最高裁平成29年9月12日第三小法廷決定を紹介しておきます。
事案の概要
ある会社が破産しました。
平成23年9月に破産手続開始決定、破産管財人に選任されます。
破産会社は信用金庫からの借入をしていました。この債務については保証協会がついていたので、保証協会は、代位弁済。
代位弁済により、求償権を、破産手続の中で破産債権として届け出ました。
この債務については、別に物上保証人がいました。
不動産を担保とした人です。
物上保証人は、求償金債務を担保するため、自分の不動産に根抵当権を設定。
この不動産の売却代金から破産債権に対する弁済がされました。
これにより、保証協会持っている破産債権は、残額が3057万2141円になりました。
物上保証人は、破産手続のなかで、不動産売却代金から弁済された金額について、求償権を予備的に届け出ました。
破産管財人の債権調査
破産管財人は、破産手続のなかで、債権調査をします。
届け出された債権について、認めるのか、認めないのかチェックします。
今回のケースでは、保証協会が届け出た債権については認めました。
物上保証人の求償権については、「本件破産債権(保証協会の)の残額が配当によって全額消滅することによる、破産法104条4項に基づく求償権の範囲内での原債権の代位行使という性質において認める」と認否しました。
そして、破産手続は終盤へ。最後配当の許可。配当表が作成されました。
そこには、次のような記載がされていました。
保証協会の本件破産債権について、破産手続開始時における債権額として確定したものを基礎として計算された配当額を算出。
この金額は、保証協会の実際の残債権額(不動産売却代金からの弁済を受けた残額)を超過していました。
そこで、保証協会にはその残債権額(3057万2141円)を配当。
これを超過する部分については、物上保証人に配当するものと記載しました。
これに対して、保証協会が配当表に対する異議申立て。
原審までの判断は?
一審では、超過部分については、債権の一部を弁済した求償権者である物上保証人に配当すべきとしました。
管財人の作成した配当表が正しく、保証協会の異議申立てを却下という判断。
これに対し、保証協会は即時抗告。
原審では、超過部分については、その他の破産債権に対して配当すべきなどとして、原々決定を取り消し。
本件を原々審に差し戻しました。
これに対し、破産管財人が許可抗告。
最高裁の判断は?
抗告棄却。
破産法104条1項及び2項は、複数の全部義務者を設けることが責任財産を集積して当該債権の目的である給付の実現をより確実にするという機能を有することに鑑みて、配当額の計算の基礎となる債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであり、その結果として、債権者が実体法上の債権額を超過する額の配当を受けるという事態が生じ得ることを許容しているものと解される、と趣旨からの解釈を展開。
なお、そのような配当を受けた債権者が、債権の一部を弁済した求償権者に対し、不当利得として超過部分相当額を返
還すべき義務を負うことは別論であるともしています。
条文上は、保証協会が受領して、実際の債権額以上の配当を受ければ、求償権者との間で、不当利得として精算すれば良いという内容です。
他方、破産法104条3項ただし書によれば、債権者が破産手続開始の時において有する債権について破産手続に参加したときは、求償権者は当該破産手続に参加することができないのであるから、債権の一部を弁済した求償権者が、当該債権について超過部分が生ずる場合に配当の手続に参加する趣旨で予備的にその求償権を破産債権として届け出ることは
できないものと解されるとしています。
今回のケースだと、物上保証人の予備的な届け出はできないという話になります。
また、破産法104条4項によれば、債権者が配当を受けて初めて債権の全額が消滅する場合、求償権者は、当該配当の段階においては、債権者が有した権利を破産債権者として行使することができないものと解されるとしました。
債権の全部消滅でも、それが配当による場合には、求償権者は権利行使できないという内容です。
したがって、破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは、その超過する部分は当該債権について配当すべきであるとしました。
結論としては、保証協会に配当することになります。
開始時現存額主義とは?
破産手続と、債権届けの中では、開始時現存額主義という原則があります。
破産法104条1項・2項にありますが、債権者が債権届をした後に、保証人等の他の義務者が一部弁済等をした場合、債権者はその債権全額が消滅しない限りは、破産手続開始時の債権額をもって権利行使を継続できるのです。
配当額も手続開始時の債権額を基準に算出されます。
一部の債権がなくなったから、その債権部分が保証人に移るという扱いはしません。
破産手続き開始時に5000万円の債権届、その後、保証人等により2000万円が弁済されたとします。
実体上は、債権者の債権は3000万円、保証人の求償権が2000万円という形になりそうです。
しかし、破産手続上は、債権者は、そのまま5000万円の権利として扱われるのです。
これが開始時現存額主義と呼ばれる原則です。
本来の債権以上に配当?
このようなルールを突き詰めると、配当時に、残っている債権額を上回る配当額となることがあります。
上記の例で、配当率が70%となると、5000万円×70%で3500万円が配当に。3000万円の債権額を上回ります。
この差額をどうするのか、争われていました。
超過部分は求償権者に配当すべきとする考え方もあり、今回の事件で、破産管財人はこの考えにしたがって配当表を作成したものと思われます。
この争いの中では、超過部分を、他の債権者に配当するという考えもありました。今回の原審の考え方です。そうすると、保証協会・物上保証人間の争いだけではすまず、他の債権者の受領分にも影響するような問題となります。
今回の最高裁決定で、他の債権に対する配当に充てるべきとした高裁の判断を否定しています。
超過部分については、求償権者に帰属するものの、破産手続の配当手続では、債権者に超過部分も含めて配当し、あとは、破産手続外で債権者と求償権者との間で、不当利得の請求で対応してよ、という判断でしょう。
保証人が一部支払をしたことで、他の破産債権者が利益を得るというのはおかしい話で、原審の考えを否定したのも納得です。
また、全部を破産管財人の対応する配当でやろうとすると、人によっては負担に感じるでしょうし、求償権の金額で闘いがあるような場合だと、破産手続でこれを決めるのも時間がかかってしまいます。
そんな理由で、破産管財人は配当額全額を債権者に配当してしまい、あとは不当利得なので、破産手続の外でやってもらうというのは、破産手続から考えると合理的ですね。
ジン法律事務所弁護士法人では法人破産の事例も豊富です。管財事件の自己破産も安心してご相談ください。
ご相談のお申し込みは以下のボタンからできます。