代表者不在の会社破産
ケース紹介
代表者不在の会社破産
債権者数約 17社
負債総額約 2800万円
会社の代表者が突然亡くなり、会社に多額の借入れや預かり品が残った場合、通常の自己破産では進められないことがあります。
この記事では、代表者不在の会社をどう清算するか、債権者破産・特別代理人選任・相続財産破産を組み合わせた解決方法と、相続放棄を含めた整理の考え方を実務に沿って解説します。
この記事は、
-
代表者不在の会社について清算希望の人
- 相続放棄と会社清算を同時に検討する必要がある
という人に役立つ内容です。
社長の死亡
ご家族から、次のようなご相談をいただきました。
「父が経営していた小さな会社の代表者である父が、 突然亡くなってしまいました。
会社には数千万円の借入が残っており、もう事業を続けることはできません。
父個人にも借金がありますし、会社の店舗には、お客様からお預かりした動産があります。
何から手を付ければよいでしょうか。」
ご家族の心情としては、まず「お客様の車を一日も早くお返ししたい」、
そして「父が遺した借金を整理し、自分たちの生活を守りたい」というお気持ちでした。

この事案の特殊性
法人自体は債務超過で、事業継続は難しいため破産申立により清算させるべき状態になっていました。
通常、会社を倒産させる場合は、代表者ご自身が弁護士に依頼し、会社の「自己破産」を申し立てます。ところが本件では、以下の事情が重なっていました。
・代表者は唯一の取締役で、後任が登記されていなかった
・代表者の死亡により、会社を代表する者が不在になった
・代表者個人にも事業性の借入や保証債務があり、相続人にとって相続放棄が合理的な選択肢だった
・会社の店舗には複数のお客様の預かり品があり、早急な対応が必要だった
・取引先(金融機関、リース会社、個人債権者など)からの督促も続いていた
このため、通常の「自己破産」ルートでは進められず、特殊な手続を組み合わせる必要が生じました。

採用した手続 ―― 3つの破産手続を組み合わせる
事務所内での検討および裁判所と事前相談のうえ、次の枠組みで申立てを行いました。
① 法人について「債権者破産」の申立て
② 代表者個人の相続財産について「相続財産破産」の申立て
③ 法人の手続に必要な「特別代理人選任」の申立て
それぞれの意味を、一般論を交えてご説明します。

① 法人の「債権者破産」とは
会社の破産は、通常、会社自身が申し立てる「自己破産」が大半です。しかし、代表者が死亡し後任もいない場合、会社として申立てを行う主体がいなくなってしまいます。
代表者を就任させようにも、法人の株式はすべて亡くなった父が持っており、相続放棄をする以上、新しい代表者の選任は難しいです。
このような場合、一時的に代表になってもらう人を選ぶ選択肢があります。
その場合、おそらく、仮に選任された人によってさらに破産申立の準備を進める必要があり、それなりに時間がかかることが見込まれました。
このような場面で活用できるのが「債権者破産」です。
会社にお金を貸している人や、未払いの債権を有する人は、自ら申立債権者として、その会社の破産手続開始を求めることができます。
本件では、ご相談者であるご家族が会社に対して貸付金等の債権を有していたため、その立場で申立てを行いました。

債権者破産のポイント
・自己破産と違い、申立債権者は「自分の債権が存在すること」と「会社に支払不能・債務超過があること」を疎明する必要があります。
・予納金は自己破産より高額になる傾向があり、裁判所と事前協議の上で金額を調整します。本件でも管財予納金を見据えて準備を進めました。
債権者破産は、自己破産に比べて申立人の経済的負担が大きくなる傾向があります。
具体的には、以下のような費用が発生します。
・申立手数料(収入印紙):2万円
自己破産の1,000円に比べて高額です。
・また、裁判所への予納金(管財費用)も高額になります。
本件では、店舗の明渡は不要という前提で、予納金は80万円とされています。
法人事件では一般に20万円~の基準ですが、債権者破産では自己破産よりも高めに設定されます。
「お金を貸している側がさらに費用を負担する」という構造になるため、申立てを検討する際は、回収可能性と費用負担を冷静に比較する必要があります。
実務上は、
・どうしても会社を清算する必要がある(預かり物の処理、対外的責任の
切り分けなど)
・代表者不在で他に手段がない
・親族として個人の相続問題と一体で整理する必要がある
といった事情がある場合に、債権者破産が選択肢として浮上します。
本件もまさにそうした典型例でした。

特別代理人選任申立て
債権者破産は、相手方(破産者となる会社)に対して申立てを行う構造です。
本件のように代表者が不在の会社では、手続上、会社の側で応答する代表者を立てなければ手続が動きません。そこで、裁判所に「特別代理人」を選任してもらう申立てを行いました。
特別代理人は、その手続の範囲内で会社を代表する立場の弁護士です。
本件では、お客様の預かり品の返還を急ぐ必要があったため、「代表者の選任を待っていては遅滞のため損害を受けるおそれがある」ことを具体的に主張し、迅速な選任を求めました。
裁判所からは比較的速やかに選任決定が出され、その後の手続が円滑に進む基盤となりました。
破産手続きを進めるためだけの代理人です。
こちらの追加コストで5万円の負担が発生しています。

③ 「相続財産破産」とは
亡くなった方に多額の負債が残っている場合、相続人は通常「相続放棄」を選びます。しかし、相続放棄をしても、亡くなった方の財産(預金、車、不動産など)は宙に浮いた状態になります。
これを清算する手続が「相続財産破産」です。
相続財産は、相続人が放棄等を行えば「法人格に準じる扱い」となり、それ自体が破産手続の対象になります。
管財人が選任され、財産を換価し、債権者に配当(または無配当で廃止)するという流れです。
本件では、法人と亡くなった代表者の資産が混同するなどしていたことから、相続財産破産までセットで進める必要が指摘されました。
なお、相続放棄を予定する相続人が、相続財産破産を申し立てること自体は、一般に「単純承認」には当たらないと整理されていますが、依頼者の意向で、少しでもリスクは減らしたいとのこともあり、こちらも債権者の立場での申立てを進めました。

申立て前の実務的な工夫
債権者破産は、自己破産以上に「裏付け資料」が重視されます。
もっとも、本件では、
・申立債権者の債権を裏付ける資料(契約書、振込履歴など)
・会社の決算書(直近2期分)
・店舗内・近隣駐車場の現地写真(預かり車両の状態、所在地の確認)
等も準備でき、ある程度の事情も説明できるなど、純粋な債権者破産申立よりは、自己破産に近い形でも申立を進めることができました。
これにより、管財人就任直後から具体的な処理(所有者への連絡、返還)に着手していただくことができました。

手続の進行と結果
申立て後、裁判所と事前協議のうえ、特別代理人選任、破産手続開始決定がスピーディーに進みました。
管財人が選任された後、預かり品は順次所有者に返還されました。
配当に充てる財産はなく、最終的に「異時廃止」により手続は終結しました。申立てから半年程度での終結となりました。
ご家族については相続放棄等を組み合わせ、亡くなられた代表者の借金を引き継がない形で生活を立て直していただくことができました。

同じようなお悩みをお持ちの方へ
今回の進め方はかなりイレギュラーな方法ではあります。相談者も複数の弁護士に相談するも、すべて断られたと言っていました。
「会社の代表者が突然亡くなったが、後継者がいない」
「亡くなった親が残した会社と借金を、どう整理してよいか分からない」
「お客様からの預かり物(車両、商品、データ等)があり、放置できない」
このような場面では、
自己破産が使えないからといって放置すると、債権者からの督促や訴訟、預かり物の毀損責任といった二次的な問題が発生します。
一般的には、職務代行者のような仮の代表者を選任する方法が使われます。
もっとも、急ぐ事情があり、家族が法人への権利を持っているような場合には、今回のような「債権者破産」「相続財産破産」といった手続を組み合わせれば、代表者不在の会社でも適切に清算する方法も選択肢になるでしょう。
今回のケースでは、唯一の取締役が死亡してしまったことから大変な手続となりました。ただ、ご家族でも取締役に登記されていれば、準自己破産などもう少しラクな手続で進めることもできたでしょう。
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