偏頗弁済と会社破産
ケース紹介
偏頗弁済の会社破産
債権者数約11社
負債総額約600万円
伊勢原市にある運送会社の法人破産相談がありました。
すでに事業を停止しており、破産手続きをするしかない状態でした。
決算書もないなど、金銭管理が杜撰であったほか、直前で取引先に10万円の支払をしていることから、偏頗弁済が問題になった事案ですので、偏頗弁済について解説します。
この記事は、
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法人破産を検討している運送会社
- 特定の相手にだけ返済を考えている
という人に役立つ内容です。
法人破産と偏頗弁済
法人破産を検討している経営者の方は、破産によって取引先に迷惑をかけることを心配し、親しい取引先にだけ優先的に弁済をしたいと考えることもあるかもしれません。
しかし、法人破産の前に一部の債権者だけに支払いを行うことは、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」として破産法上で禁止されています。
偏頗弁済とは?
偏頗弁済とは、破産者が全ての債権者に対して公平に債務を弁済することができない状態で、特定の債権者にのみ弁済を行うことを指します。これは「債権者平等の原則」に反する行為です。
破産法では、特定の債権者への弁済や担保提供を禁止しており、これに違反する行為が「偏頗弁済」となります。
偏頗弁済が行われた場合、弁済を受けた債権者は、破産管財人から受け取ったお金の返還を求められる可能性があります。
たとえば、親しい取引先にだけ優先的に弁済したり、親戚にこっそり返済した場合、後になって破産管財人から「受け取った物を返しなさい」と請求されることがあります。このような破産管財人の請求を「否認権の行使」と言います。
偏頗弁済の禁止と破産法の基本原則
法人破産の手続きは、債務者の財産を換価・処分し、債権者への配当を行い、法人を清算する手続きです。
法人の財産は全ての債権者に対して平等に分配されるべきものであり、一部の債権者にだけ弁済をしたり、担保の提供をすることは「債権者平等の原則」に反します。
そのため、破産法では、支払い不能状態での特定の債権者への弁済や担保提供を「偏頗弁済」として禁止しています。偏頗弁済を行うと、破産手続き開始後に破産管財人から当該弁済が否認され、弁済を受けた相手方は受領した金銭を返還しなければならない場合があります。
破産管財人の否認権制度の趣旨
破産法第1条は、破産法の目的を「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との権利関係を適切に調整」すること、「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」ことと定めています。
自己破産手続は、利害関係人の利害を適切に調整し、債務者の財産を適正かつ公平に清算することを目的としています。
破産手続開始決定前には、破産者(債務者)が自分の財産をどのように処分しようと自由であるように思われますが、これは破産手続の目的に反します。そこで、破産管財人には、破産者や第三者が行った行為の効力を否定し、財産を本来あるべき状態に戻す「否認権」が与えられています。
偏頗弁済のリスク
偏頗弁済に該当する行為を行った場合、以下のようなリスクが生じます。
まず、破産管財人による否認権行使の対象になります。
破産管財人は、裁判所による破産手続開始決定と同時に選任され、破産者の財産を管理し、換価・処分を行う権限を持ちます。破産手続開始前であっても、経済的窮境にある債務者が特定の債権者にのみ弁済することは、債務者の財産の適正かつ公平な清算を妨げます。そのため、破産管財人には否認権が認められており、偏頗弁済があった場合には、この権利を行使して弁済を無効にし、取引先から弁済金を回収することができます。
取引先が任意に支払わない場合には、裁判を起こすこともあります。
次に、破産犯罪に該当する可能性があります。
偏頗弁済のうち一定の行為は、破産犯罪として処罰される可能性もあります。具体的には、破産法第266条に規定される「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」に該当する可能性があります。この罪に該当すると、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処される可能性があります。
さらに、個人では免責不許可事由になる可能性があります。
法人破産の申立を行う場合、法人の債務を保証している法人代表者個人についても同時に破産申立を行うのが一般的です。個人の破産申立では、裁判所の免責許可決定によって原則として全ての債務をゼロにすることが可能です。しかし、代表者個人が偏頗弁済を行った場合、免責不許可事由に該当し、免責の許可を受けられない可能性があります。
法人の破産手続きと個人の破産手続きは異なるため、法人破産手続きでの偏頗弁済が否認などされても、個人の破産手続きで直ちに免責不許可になるわけではありませんが、このリスクについては考えておいたほうが良いでしょう。
否認権行使の対象となる偏頗弁済の具体例
それでは、どのような弁済が破産管財人による否認権行使の対象となるのでしょうか。
以下に具体例を挙げて説明します。
パターン1:支払不能後または破産手続申し立て後の弁済
1つ目のパターンは、破産者が支払不能に陥った後、または破産手続が申し立てられた後に弁済をする場合です。債権者が支払不能等を知っていた場合、否認権行使の対象となります。
また、弁済等を受けた債権者が次のような関係者の場合、弁済等が支払不能または支払停止になった後にされたものであることを知っていたと推定されます。
- 弁済を受けた債権者が破産者の理事や取締役の場合
- 弁済を受けた債権者が破産者の親族または同居者の場合
パターン2:破産者の義務に属しない弁済
2つ目のパターンは、弁済が破産者の義務に属しない場合です。
これは、支払期日が到来していない債務を弁済した場合や、担保を提供する合意がないのに担保を提供した場合などです。この場合、支払不能になる30日前からの弁済が対象となり、債権者が他の債権者を害することを知らなかった場合には否認権行使の対象とはなりません。
早めに弁済する場合などが該当します。
偏頗弁済否認を避けるための対応
1:破産手続開始前の弁済は慎重に行う
破産手続開始前に弁済を行う場合は、全ての債権者に対して公平に行うよう心がけましょう。特定の債権者にだけ弁済を行うことは避けるべきです。なお、破産手続き上、従業員の給与については、支払いが許される運用がされていることが多いです。
2:破産管財人との連携を強化する
破産手続開始後は、破産管財人と密に連携し、弁済や財産処分に関する決定を適切に行うことが重要です。
破産管財人の指示に従い、公平な対応を心がけましょう。
3:法律の専門家に相談する
破産手続においては、法律の専門家に相談しながら進めることが不可欠です。
自己判断で弁済をしてしまうと、後に大問題となることもあります。
法人破産を依頼した法人の代理人となる弁護士と相談しながら進めるようにしましょう。
偏頗弁済をすると債権者に迷惑も
「この取引先にはお世話になったから」
「友人にだけは迷惑をかけられないから」
という理由で一部の債権者に弁済を行うと、後になって破産管財人から否認権の行使として返還を求められることがあります。
破産管財人からの突然の連絡により、債権者が対応に追われ、受け取った金銭を返さなければならなくなるのです。
特定の人だけのために、と考えてした弁済によって、債権者が対応に追われたり、慌てて資金を準備しなければならなくなったり、その結果、全額返済をすることになったりすることも。
かえって債権者に迷惑になることもありますので不公平な弁済は避けるようにしましょう。
偏頗弁済の法人破産事例
伊勢原市に本店がある法人からの相談で、偏頗弁済が問題になった事案があります。
大手運送業者の下請けとして、配送業務を行っている会社の法人破産の依頼でした。
従業員も解雇、本店所在地の事業所も明渡をしての破産申立をしています。
直近2年の決算もないなど、個人事業の延長という規模感で、債権者は11社で約600万円というもの。
車両の売却、売掛金の回収、未払給与、解雇予告手当の支払をしての破産申立となっています。
法人破産の決算について
もともと会社の決算を税理士には頼んでいなかったとのこと。
ただ、地元の民商に加入しており、民商に決算書の作成を頼んでいたとのことです。
自分では、現金での出入金を入力して、決算時に通帳などの資料と一緒に渡していました。
それでも、代表者のの体調悪化で入力作業ができなくなり、2年前の期以降は決算作業ができていない状態です。
破産申立では、会計処理が済んでいない最終決算からの資産・負債の変動については説明を求められます。
最終決算を見ると、現金について、貸借対照表では約700万円とされていました。
しかし、代表者に聞いても、この時点でも、手元現金はほとんどなかったとのことで、なぜこのような金額が計上されているかは、民商から聞いておらず、詳しくは分らないとのこと。
ただ、現金で支払う経費が多く、その領収書がないものも少なくありません。そのため、経費として入力・計上できないものが積み重なった可能性が高そうでした。
商工会に問い合わせたところ、やはり、決算書には、預金口座から引出された金額から、領収書等で支払が確認できた金額を計上しているとのことでした。
法人破産の経緯説明
この会社は、大手運送会社が扱う荷物の配送を請け負っていました。
その頃は、十分な売り上げがあり、代表者の体調も良好であり、会社の経営に問題はありませんでした。
しかし、数年前、大手運送会社の営業所が遠方へ移転となり、合わせて配送エリアの再編がありました。
主に扱っていた伊勢原近辺エリアが別の営業所に移管。扱う荷物が大幅に減少しました。
売り上げも半減。
精神的不調から代表者が働けない状態に。
会社の経理も満足にできなくなりました。
令和2年4月には、新型コロナウイルスの流行による緊急事態宣言が出され、荷物が大幅に減少。
日本政策金融公庫から特例の融資を受け、持ち直したものの、以前ほどの売上には戻らず。
個人名義で借入を行って資金繰りをするようになり、限界となったため、事業を停止。
問題とされた偏頗弁済
事業停止後、従業員に、給与などとして25万円を現金で支払いました。
その後、その従業員とともに、外注で仕事を頼んでいた相手が現れ「最低でも20万円は払ってくれ」と主張。一旦は支払を断りましたが、家の前に居座られ、根負けしてしまいました。会社からは10万円を外注相手に振り込みました。
偏頗弁済の時期
大手債権者の日本政策金融公庫に対する債務については、8月10日に期限の利益を喪失していました。
外注相手に支払をしたのは9月29日。
9月29日時点において、破産会社は、弁済期にある債務について、支払能力を欠くことから一般的かつ継続的に弁済することができない状態であったといえ、支払不能状態にあったと考えられます。
そうすると、少なくとも破産法第162条第1項第1号の客観的要件を満たすものといえそうです。
偏頗弁済の認識
ただ、代表者は、外注先に対して、日本政策金融公庫を含む支払いに関する話を伝えてはいません。
もっとも、従業員に対しては、春頃に会社の資金繰りがもたない旨を伝え、9月29日直前に会社の支払いについて、払いきれない旨を伝えています。
外注先業者と従業員はともに、相談者の自宅を訪問しており、破産会社が債務の支払いを行えないことが伝わる状況であったと考えられます。
このような報告を受けた破産管財人は、否認権の行使をし、外注相手から10万円を回収しています。
なお、従業員の給料や解雇予告手当に関しては、給料債権の優先性や従業員の生活を考慮し、支払停止の後でも支払が認められる運用がされていたり、認める文献も多く、偏頗弁済と指摘されるリスクは極めて低いです。
法人の破産手続きについては、債権者集会が2回開催され、依頼から約9ヶ月で終了となっています。
偏頗弁済の法人破産のご相談は、以下のボタンよりお申し込みください。













