FAQ(よくある質問)
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Q.助成金を不正受給した人の末路は?
会社経営が厳しいとき、助成金制度があるのであれば活用すべきでしょう。
雇用調整助成金や持続化給付金なども活用すべきでしょう。
ただ、当然ながら不正受給はダメです。
不正受給をして裁判にまでなってしまうケースもあります。
助成金の不正受給について裁判例を2つ紹介をしてみます。
その不正受給をしてしまったケースで今回は民事と刑事で、どのような結論になるのかという、不正受給の末路ともいえるべき結論を紹介してみます。
動画での解説はこちら。
支給決定の取り消し
不正受給が行われた場合、通常、助成金の支給要領にある取り消し決定がされます。
支給要領では、不正受給をした場合には、支給決定を取り消します、とあるはずです。
また、民法所定の利率で遅延損害金も加算すると記載されているでしょう。
不正受給が発覚する経緯としては、調査が入り、発覚、支給取り消しという流れです。
支給決定の取り消しを争った裁判例
民事の裁判例で紹介するのは、この支給取り消しの内容を争ったというケースです。
東京地裁令和元年11月7日の判決です。
内容は障害者雇用の助成金。
具体的には、特定就職困難者雇用開発助成金及び高年齢者雇用開発特別奨励金でした。
こちらの内容が争われたというケースで金額は約1400万円。
取り消し決定の理由は、助成金の対象となる障害者の雇用は期間の定めがない、つまり長期的に働くことを前提とした雇用契約であったところ、実態としては期間が半年などの有期雇用契約だったという点でした。
これを助成金申請の際には、期間の定めがないような実態と異なる契約書を提出し、複数回にわたって約1400万円を受け取ったというものでした。
助成金を受け取った側が争ったのは、最初に書類を出したときには、実態と合っている契約書を出したものの、審査側
からの指摘を受けて訂正したことがきっかけであったと主張し、審査担当者側の主導のような主張で、返金請求は信義則違反である等の主張で争ったという内容です。
争われたので、取消決定により、助成金という贈与が解除されたことを理由とする原状回復請求などの理論構成で裁判が起こされました。
当初、被告側が、本件助成金の返還債務の不存在の確認を求める訴えを提起したものの、反訴が起こされたので、確認の訴えを取り下げたという経緯です。
支給要件は?
対象労働者を公共職業安定所若しくは運輸局又は適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等の紹介により、一般被保険者として雇い入れ、かつ、当該対象労働者を特困金の支給終了後も引き続き相当期間雇用することが確実である(以下「雇用継続性要件1」という。)と認められる事業主であることが必要とされていました
雇用保険法施行規則110条2項1号イは、対象労働者を安定所等の紹介により「継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主であること」を要する旨定めており、特困金支給要領においてこの要件を上記のとおり具体化したものでとされています。
厚生労働省等作成に係る平成23年版「雇用の安定のために事業主の方への給付金のご案内(詳細版)」は、期間の定めのある雇用については、契約更新の回数に制限がなく、希望すれば全員の契約更新が可能である場合など、期間の定めがない雇用と同様と判断される場合に限り、雇用継続性要件1を充足するものとしていました。
支給要領(共通)0601では、管轄労働局長は、事業主が「偽りその他不正の行為によって助成金の支給を受けた場合」等には、当該事業主に対して、支給した助成金の全部又は一部に係る支給決定を取り消すものとされていました。
また、特困金支給要領1302は、本件取消条項に該当する助成金の不正受給の意義について、「詐欺、脅迫、贈賄等刑法各本条に触れる行為を含むことは勿論であるが、刑法上犯罪を構成するに至らない場合であっても、故意に支給申請書に虚偽の記載を行い、又は偽りの証明を行うことにより、本来受けることのできない助成金を受け、又は受けようとすることをいう。ただし、支給申請書の記載誤りが故意によらない軽微なものと認められる場合にはこれに該当しない。」としています。
審査による修正は?
当初の支給決定前の審査で問題になったのは次の点でした。
岡山労働局職業安定部職業対策課助成金主任(当時)は、本件申請1に係る上記書類を審査し、被告担当者に電話を架け、同事務所の事務員に対し、本件訂正前通知書に本件期間制限条項が記載されていることを指摘するなどしました。
その後、被告は、本件訂正前通知書の「契約期間」欄の記載を「期間の定めなし」との記載に修正した労働条件通知書を作成し、岡山労働局長に提出。
その後、審査担当者は、本件申請書1の添付書類の一つとして提出された雇用状況等申立書について、その「雇用期間の定め」欄の「あり」に丸印が付され、「契約期間」欄にその期間が記載されているのを発見したことから、平成24年10月1日付けで、被告担当者に対し、本件雇用状況等申立書の写しに、赤字で、上記丸印及び契約期間の記載の上に二重線を引いた上で、「雇用期間の定め」欄の「なし」に丸印を付したものを送付して、同申立書の訂正を求めました。
被告は、「雇用期間の定め」欄の「なし」に丸印を付した雇用状況等申立書を作成し、これを岡山労働局長に提出。
このやりとりが問題になったのでした。
本件各支給決定の取消しの経緯は?
岡山労働局の職員は、平成27年7月3日、被告の事業所を訪問して、調査を行い、被告が保管している書類を確認するなどしました。
被告が本件特困金対象労働者に対し交付したものとして保管されていた労働条件通知書には、いずれも、「契約期間」欄に「『就労継続支援A型事業所利用契約書』に基づいた期間の定めあり」(本件期間制限条項)、「契約更新の有無」欄に「雇用契約の更新は、A型事業利用契約書(第3条、17条及び19条)の内容、進捗状況を参考にしながら、その都度、判断することとします。」(本件更新条項1)との記載がありました。
そして、本件期間制限条項の下には、括弧書きで具体的な契約期間(始期及び終期)の記載が存在し、その期間は概ね半年間でした。
岡山労働局の職員は、平成27年7月22日、被告の事業所を再度訪問し、労働条件通知書に本件期間制限条項、本件更新条項1及び2の記載が存在することの理由等について、被告の理事から聴取しました。
聴取結果を記載した「雇用関係助成金に関する申立事項聴取書」には、次のような記載がありまsちあ。
「本件対象労働者の雇用助成金第1期支給申請にかかる添付書類の一つである労働条件通知書について、原本とは異なる内容のものを別途作成し、支給申請書に添付しました。また、その後につづく2期以降の申請も、1期の手続が不適正であったにもかかわらず続けて行いました。」
「雇用助成金の支給要件では『有期雇用契約者の場合は支給対象外』のため、本来の労働条件では、支給要件に該当しませんでした。そこで、申請代行を依頼していた●●の指導のもと、雇用助成金支給要件に該当するように、対象労働者の労働条件のうち、雇用期間に係る項目を本来の「雇用期間の定め有」から「雇用期間の定め無し」に書き換え、また更新条項の項目を変更または消去して雇用助成金の支給要件に合うよう、通知書を別途作成し、雇用助成金の申請には当該通知書(写)を添付いたしました。当該通知書は、助成金申請用であったため、当然対象労働者本人には交付しておらず、雇用助成金支給申請後に廃棄処分をしております。」
「今回の通知書の内容については、事実と異なる雇用期間定め無しの通知書が別途作成されたということは、あってはならない事だと現場を含め社内に周知したところです。事実と異なる内容の通知書を作成し、雇用助成金の支給を受けたことについて、大いに反省しており、今後このようなことが無いよう業務管理を徹底していきます。」
不正を認めるような内容の書面が作成されています。
これにより、岡山労働局長は、被告が事実と異なる内容の労働条件通知書を偽造し、本件助成金を受給したことを理由として、本件各支給決定について、いずれも支給額の全額を取り消したものです。
なお、被告は、平成29年7月31日付けで事業所を閉鎖し、すべての労働者を事業主都合で解雇しています。
契約書以外の雇用の実態は?
雇用条件通知書などの形式面からすると、助成金の要件を満たさないのですが、それ以外に雇用の実態についても判決の中では触れられています。
被告における特困金の対象労働者に係る雇用の実態を見ても、対象労働者が希望すれば契約を更新することができるような運用状況にはなかったといえるとしています。
たとえば、被告に雇い入れられて1年余で、被告を退職した従業員がいることなどを挙げています。
被告における雇用契約の更新に関する実際の運用は、被告にとって扱いにくいと考える対象労働者や、被告から見て有用な作業能力を有しないと考える対象労働者については、雇用契約関係から離脱させるというものであったと推認されるとしています。
このような被告における運用の実際に照らすと、対象労働者が希望すれば契約更新がされるなど、契約締結時にその契約が相当期間にわたり継続すると確実に見込まれることが客観的に明らかであったとは、到底いうことができないと結論づけました。
故意ではないとの主張は?
被告は、雇用期間の定めについて事実と異なる本件提出通知書を提出したのは、審査担当者から、本件申請1の審査の際、無期雇用に記載を修正した労働条件通知書を送付するよう指示ないし誘導があったためであり、故意に不正に特困金を受給しようとしたものではない旨主張していました。
しかし、担当者は、本件申請書1において引用する本件求人票1の「雇用期間の定めなし」の記載と本件訂正前通知書における本件期間制限条項の記載とが明らかに矛盾するため、これらのうちいずれが正しい記載であるのかを確認するために、本件申請書1の提出事務を代行していた担当者に連絡を取り、本件訂正前通知書に本件期間制限条項が記載されていることを指摘したと認めるのが相当としまいた。
担当者において、事実と異なることを知りながら、被告に対し無期雇用の記載をするよう指示ないし誘導する根拠は、およそ見出し難いともしています。
残念ながら、この点の被告の主張は苦しいものがあります。
なお、被告が主張していた信義則違反についても、事実と異なる労働条件通知書を提出するよう指示・誘導したことなどから、原告が被告に本件助成金全額の返還を求めることは信義則に反する旨を主張するも、採用できないと否定しています。
助成金返還の理論構成
判決では、助成金の返還を認めています。その理論構成としては次のようなものでした。
本件各支給決定により成立した本件助成金に係る各贈与契約は、その全てが、本件取消条項が定める「偽りその他不正の行為によって助成金の支給を受けた場合」に該当し、原告は、同条項に基づき上記各贈与契約を解除することができ、平成27年8月17日、本件各取消決定をもって同契約を解除したものだと認定。
そして、本件取消条項に基づく本件各取消決定は、契約の規定により当事者の一方が解除権を有する場合(民法540条)に当たるところ、当該解除権に基づき契約が解除された場合には、原状回復義務(同法545条1項)が発生し、さらに金銭を返還する時は、その受領の時から利息の支払義務(同条2項)が生じるものであるとしました。
契約による解除、原状回復義務という構成です。
これにより、支給日の各翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払をすべき義務を負うとしています。
不正受給の損害金加算
この年5%というのは民法改正法が2020年4月に改正法が施行され、現在は変動利率という扱いになっています。2020年では年3%です。
ただ、助成金の不正受給に関しては厳罰化が行われていて、現在は、返還額に2割加算と支給要領に記載されていることがほとんどでしょう。
この判例よりも、返還額は高くなります。
この事件では、代行業者も関係しているようですので、業者の言い分を鵜呑みにしないよう意識しておく必要があります。
刑事事件で詐欺罪になることは?
さらに悪質なケースでは刑事事件になるケースもあります。
犯罪としては詐欺罪が問われます。
受け取る権利がないのに、虚偽申告をして受け取るわけで、詐欺罪が成立します。
これを認定した裁判例を紹介します。
福島地方裁判所判決令和元年5月10日です。
被告人は、原発事故からの復興目的の補助金等を県などからだまし取ったとして、詐欺罪に問われました。
結論として懲役7年に処しています。
補助金詐欺の事実とは?
被告人は、産業用プリンターの製造、販売等を業とする株式会社Aの代表取締役として、同社における業務全般を統括し、各種補助金受給の業務等を遂行していました。
福島県内に立地する企業に対して交付されるふくしま産業復興企業立地補助金に関し、同補助金は、補助金の交付対象に指定された企業が補助事業の操業を開始するとともに、当該企業が同補助金の交付対象となる投下固定資産の取得費用を支出したことなどを要件として交付されるものでした。
被告人は、補助対象事業として同県南相馬市に新設するLED及びプリンター関連工場の設備導入等に関して、投下固定資産の取得費用を水増しするなどして同県から同補助金をだまし取ろうと考え、水増しした投下固定資産の取得金額等を基に算出した補助対象経費が17億9926万9024円である旨の内容虚偽の同補助金交付申請書等を同県知事宛てに提出。
これを基に算出した補助金10億7950万円を振込入金させたというものでした。
また、南相馬市企業立地助成金に関し、同助成金は、同助成金の交付対象に指定された事業者に対し、同助成金の交付対象となる投下固定資産総額に応じて交付されるものであるところ、同様に投下固定資産の取得金額を水増しするなどして同市から同助成金をだまし取ろうと考え、水増しした投下固定資産の取得金額等を基に算出された助成金5000万円を振込入金させたという内容でした。
被告人及び弁護人は、関連設備については、いずれも、実際には導入されたものの中に中古品が含まれていたにもかかわらず、新品を導入する前提で算定された取得費用を記載した交付申請書等を県及び南相馬市の担当者に提出したという事実については争わず、関連設備については取得費用を水増しした上で申請したことを認めていました。
詐欺罪の成立の有無やその成立する範囲等を争ったものでした。
水増し以外の部分も詐欺罪に
弁護人は、本件補助金等の不正受給につき詐欺罪が成立するとしても、その成立範囲は、交付を受けた金額全額ではなく内容虚偽の水増し請求部分に対応する部分に限定されるべきと主張。
交付を受けた補助金額又は助成金額から適正と評価すべき取得費用の額により算出される額を控除した額の範囲でのみ詐欺罪が成立すると主張しました。
しかし、県及び南相馬市の担当者は、上乗せ等の事情が事前に判明していたら、被告人側に対して必要な説明を求めたはずであり、これをしないまま本件補助金等の一部を交付することはなかったこと、また、被告人の会社が支払った売買代金を還流させていたことが判明していれば、本件補助金等を交付しないことはもとより、本件補助金等の交付対象企業としての指定を取り消すこともあり得たと述べていました。
弁護人の主張を前提としてさえ、被告人による補助対象経費の水増しの程度は全体の3分の1弱程度と著しく多額であることなどから、深刻な虚偽の内容が記載されていることを認識したならば、本件補助金等の申請手続を継続して適正な限度で本件補助金等を交付したとは認め難く、本件補助金等の交付自体を拒絶したものと考えるのが合理的としました。
このような理由で、交付を受けた本件補助金等の全額について、詐欺罪が成立するとしています。
これにより被害総額11億円という多額の認定がされたことになります。
量刑の理由
被害総額以外に、被告人が経営する会社だけでなく、主要取引先の取締役である共犯者との連携により、同取引先を中心に他の複数の会社の協力を得て、物品の調達、各種書類の作成等、様々な工作をした上で実行されたものであるが、被告人は、自ら経営する会社の事業のために本件補助金等の交付を申請した実行者である上、自ら共犯者と意思を相通じて、投下固定資産の取得費用を水増しするにとどまらず、資金を循環させるなど費用の水増しが発覚するのを防ぐための偽装工作をしたほか、県職員による現地確認に際して、中古品であることが発覚しないようにプリンターを入れ替えたり、補修をするなど隠ぺい工作をしたりし、さらに、県職員からプリンターが中古品であるとの疑惑をもたれるや、共犯者に連絡して中古品でないことを念押しする内容の書面を作成してもらい、これを提出するなどしており、補助金をだまし取るという強い犯意の下、複数の巧妙な手段を用いた悪質な犯行であるといえるとしています。
被告人は、福島県及び南相馬市からの返還命令に従い、福島県に対しては受領額の約半分である5億7000万円を、南相馬市に対して受領した5000万円全額をそれぞれ返還したものの、懲役7年の実刑判決とされています。
倒産回避のために助成金を活用することは経営者としてはやるべきですが、不正受給に手を出してしまうと、このような末路になることもありますので、ご注意ください。
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